
司法書士の時岡アヤ子です。
《遺産分割に関する見直し》
今回の相続法改正には、遺産分割に関する見直しがいくつかあります(2019年7月1日施行)
(1)まず、結婚して20年以上が経つ夫婦間で、
居住用の建物またはその敷地(居住用不動産)を遺贈したり贈与した場合、
新法第903条第3項の「持戻しの免除の意思表示があったものと推定」します。
そのため遺産分割協議において、この居住用不動産が相続財産とみなされることはなく、
配偶者や他の相続人の相続分を算定します。
ただし、これにより他の相続人の遺留分を害する場合には、
遺留分侵害額請求(新法第1046条)の対象になります。
(2)預貯金債権が遺産分割の対象になるのかどうか、
最高裁判例(最大決平成28年12月19日民集70巻8号2121頁)は従前の判例を変更し、
相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、
遺産分割の対象となると判示しました。その趣旨を活かしながら、
一方では緊急に相続人が必要とする資金を使うことができるように、新しく
① 家事事件手続法と ② 民法の二通りの「預貯金の仮払い制度」ができます。
① 家事事件手続法第200条第3項によれば、家庭裁判所に遺産分割の調停または
審判の申立てがあり、預貯金債権を申立人または相手方が行使する必要があると
認められると、その申立人または相手方が、預貯金を使うことができるようになります。
この「必要があると認められる」場合として、条文上は相続財産に属する
債務の弁済や相続人の生活費の支弁が例示されていますが、
個々具体的には家庭裁判所の審査に委ねられます。
また条文上、特に上限額はありませんが、同条同項ただし書によると、
他の共同相続人の利益を害しない範囲内に留められます。
なお、この仮払いで認められた内容は、その後に行われる遺産分割の調停や審判上、
考慮されません。
② 新法(民法)第909条の2は、家庭裁判所の手続を経ない場合の仮払いの手続です。
各共同相続人がそれぞれに単独で払戻しをすることができますが、
相続開始時の預貯金債権額の3分の1に、
この払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額が上限です。
ただし同じ金融機関に対する払戻しの請求には、
法務省令で定める限度額があります。
そしてこの実際に払い戻された金額は、その共同相続人が、
遺産の一部の分割によって得たものとみなされます(新法第909条の2後段)。
(3)新法第907条は、遺産の一部分割を明文化します。
実務上認められてきましたが、共同相続人の協議においても(同条第1項)、
また家庭裁判所における審判においても(同条第2項)、
遺産を一部だけ分割することができます。
(4)新法第906条の2により、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、
この財産が遺産分割時において、
遺産として存在するものとみなすことができるようになります。
ただし、全ての共同相続人(財産処分をした相続人を除く)の同意が必要です。
被相続人の遺産であっても、その分割協議をする時点で現に存在しないものを、
本来、分割することはできないと考えると、
共同相続人の一人が使い込んでしまった場合などには不公平です。
そのためこのような不公平を是正するべく判例実務で認められてきた考え方を、
今回改めて条文化したものといえます。
【参考文献「相続法改正と司法書士実務」
(東京司法書士会民法改正対策委員会編)日本加除出版株式会社】
執筆:時岡アヤ子